大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和30年(ヨ)483号 決定 1955年8月10日

申請人 坂本繁蔵 外三名

被申請人 神奈川県収用委員会

主文

本件仮処分申請を却下する。

申請費用は、申請人等の負担とする。

理由

(申請の要旨)

本件仮処分申請の要旨は、

「申請人等は、別紙目録記載の横浜市所有の土地を耕作している農民である。

内閣総理大臣は、昭和三〇年二月一一日横浜調達局長よりの使用認定の申請に基き日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法(以下、特別措置法と略称する。)第五条に基いて申請人等の耕作する土地を含むいわゆる岸根地区について使用の認定をした。

横浜調達局長は、同年二月一四日右使用認定処分の通知を発しその後所定の手続を経て、同年三月三〇日被申請委員会に対し、申請人等の耕作する土地を含む土地の使用の裁決の申請をし、被申請委員会は、右申請に基き同年五月七日審理を開始し、同年七月一二日公開審理を終結し、近く裁決をする予定である。

しかしながら、特別措置法第一四条は、収用委員会の組織権限を定めた土地収用法第五章第一節の規定を特別措置法に適用することを特に排除しているので、土地収用法の右章節に基いて成立している被申請委員会は、前記のような土地使用の裁決の申請を受理し、これを審理、裁決する権限を有しないものである。

このように、特別措置法に基く本件土地の使用等について何等裁決する権限がないのにかかわらず、被申請委員会は近く裁決をする予定であるので、若し申請人等に不利な裁決があり、その執行がなされてしまえば、耕作農民である申請人等は、耕作地を失い、その地上には、鉄筋コンクリート造りの建物などが建てられてしまうので、その後被申請委員会に本件土地の収用について裁決をする権限のないことの確認の判決を得ても、時すでに遅く申請人等は、右裁決により償うべからざる損害を蒙ることが明らかであるから、右本案判決のあるまで、申請人等の耕作する別紙記載の土地の使用の裁決申請事件について、審理および裁決をしてはならない旨の仮処分命令を求める。」

というのである。

(当裁判所の判断)

本件仮処分の本案の訴は、被申請委員会が申請人等主張の事件について、実体的な裁決をする権限がないことの確認の訴であるが、この種の確認の訴が適法であるとしても、かかる訴を本案として、申請のような仮処分をすることは、行政事件訴訟特例法第一〇条の趣旨から観て許されないものと解するのが相当である。

すなわち、仮処分、殊に申請のようないわゆる仮の地位を定める仮処分は、裁判所の本来の司法作用に附随的に認められた民事行政作用にほかならないので、行政事件訴訟特例法第一〇条は、「行政庁の処分については、仮処分に関する民事訴訟法の規定はこれを適用しない。」と規定して、本来の行政作用に裁判所の仮処分による民事行政作用が干渉することを避け、その代りに執行停止命令制度を設けて、行政権の最高責任者である内閣総理大臣の異議のないことなどの条件の下に、行政処分の執行により償うことのできない損害が生ずる場合に保全的な措置をとることを裁判所に認めているのである。

行政事件訴訟特例法第一〇条の趣旨がこのようなものである以上、行政庁が特定の事項について行政処分をする権限のないことの確認の訴を本案とする仮処分で、行政庁に対し、予じめ行政処分をすることを封ずることも同法の認めないところと解せざるを得ないのである。

しかも、本件においては、被申請委員会がどのような裁決をするか未定であり、仮に申請人等に不利益な裁決をするとしても、これに対していろいろ救済方法が認められているのであるから、今ただちに申請どおりの仮処分をしなければ、申請人等に回復しがたい損害が生ずるものとは認められないので、この種仮処分の必要性についても疎明がないものというべきである。

以上のとおり、申請人等の申請は、理由がないから、これを却下し、申請費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判官 大塚正夫)

(目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例